「緑内障です」
眼科の医師にそう言われた時、自覚症状は何もなかった。目は見えている。痛くもない。かすむわけでもない。それなのに、緑内障。
糖尿病の治療の中で「緑内障のリスクがある」と言われ、念のために受けた検査。まさか本当に見つかるとは思っていなかった。
糖尿病から緑内障へ|コロナが始めた連鎖
コロナでICUに入った。その治療の影響で糖尿病になった。糖尿病の医師から「緑内障のリスクがあるから眼科を受診してください」と言われた。
コロナ→糖尿病→緑内障。一つの病気が次の病気を呼ぶ連鎖。まるでドミノ倒しのようだ。最初のドミノはコロナだった。あの日会社で熱を出さなければ、今頃は健康なまま暮らせていたかもしれない。でも「たられば」を言っても仕方ない。起きたことに対して、今できる最善を尽くすしかない。コロナに感染しなければ、どれも起きていなかったかもしれない。この連鎖の重さを、検査を受けるたびに感じる。
眼科での検査|たくさんの検査に驚いた
最寄りの眼科を受診した。「糖尿病なので緑内障の検査をしたい」と伝えた。
検査の種類が多くて驚いた。
まず眼圧検査。目に風を「プシュッ」と当てられる、あの検査だ。何度やっても慣れない。次に眼底検査。瞳孔を広げる目薬を入れて、眼底カメラで撮影する。目薬が効くまで20分ほど待つ。その間、だんだん視界がぼやけてくる。
視野検査は一番時間がかかった。片目ずつ、ドームの中の光を見つめて、視野の端に光が見えたらボタンを押す。集中力が必要で、途中で疲れてくる。「ちゃんと見えてるのに押し忘れたらどうしよう」と余計なことを考えてしまう。
検査中、何度もボタンを押し忘れた気がして不安になる。「今の光、見えてたのに押せなかった」。でも医師に聞くと「完璧に押せなくても大丈夫です。全体の傾向を見るので」と言われた。それでも毎回緊張する。自分の視野が欠けているかどうかを判定する検査だ。緊張しない方がおかしい。
OCT検査は網膜の断層撮影。これは座っているだけで終わる。痛みもない。ただ、この検査で視神経の状態が細かくわかるらしい。目に風を当てられ、光を追い、片目ずつ視野の欠けをチェックする。初めての検査ばかりで、緊張しながら受けた。
検査自体は痛くない。ただ、時間がかかる。全部で1時間以上はかかったと思う。「これだけ丁寧に検査するということは、それだけ重要な病気なんだ」と実感した。
「緑内障です」と言われた瞬間
検査結果を聞く時、少し覚悟はしていた。糖尿病がある以上、可能性はゼロではないと思っていた。
「左目に緑内障の初期症状があります」
やっぱりか、と思った。同時に「マジか……」とも思った。自覚症状が何もなかったからだ。見えている。不自由はない。それなのに、視野の一部が欠けているらしい。
ただ、初期段階で見つかったことは幸運だった。手術のリスクもない段階。点眼で進行を抑えられる。もし検査を受けていなかったら、気づかないまま進行していた可能性がある。自覚症状がないから、検査しなければ一生気づかない。それが緑内障の怖さだ。
一生続く点眼|毎日欠かせない習慣
医師から「毎日の点眼を続けてください。一生です」と言われた。
一生。その言葉の重さを、最初は実感できなかった。風邪なら治る。骨折も治る。でも緑内障は治らない。進行を「抑える」ことはできても、「治す」ことはできない。失われた視野は戻らない。
医師に「点眼を忘れるとどうなりますか」と聞いた。「すぐにどうなるわけではありません。でも、忘れる日が積み重なると、じわじわと視野が欠けていきます。気づいた時には取り返しがつかない」と。
目に見えない病気の進行を、目に見えない点眼で止め続ける。この地味な戦いを、一生続ける。でも、毎日点眼を続けていると、じわじわとわかってくる。旅行に行く時も点眼薬を持っていく。飲み会で帰りが遅くなっても、寝る前に点眼する。忘れそうになる日もある。風呂上がりに「あ、まだやってない」と思い出すこともある。
命に関わる病気ではない。でも、やめたら視野が欠けていく。静かに、ゆっくりと、確実に。点眼を忘れた日の不安は、想像以上に大きい。
点眼を忘れない仕組み
忘れないために、仕組みを作った。
点眼薬は洗面台の鏡の前に置いている。歯を磨く時に必ず目に入る場所。夜の歯磨き→点眼→洗顔。この流れをルーティンにした。
点眼は1日1回、夜だけ。ただし、点眼後に必ず顔を洗わないといけない。目の周りに薬液が残ると、まつ毛が伸びたり、二重まぶたになったりする副作用がある。実際、左目だけまつ毛が伸びて、まぶたの印象も変わった。右目と比べると明らかに違う。
こんな副作用があるとは、最初は知らなかった。医師から説明は受けたが、「まさか」と思っていた。でも本当になった。点眼薬の種類によって副作用は異なるが、緑内障の点眼を始める方は、医師に副作用について必ず確認してほしい。
スマホのリマインダーも設定した。夜22時に通知が来る。ただ、通知に慣れてしまうと無意識にスワイプして消してしまうことがある。結局、物理的に「目に入る場所に置く」のが一番確実だった。
旅行の時は、着替えよりも先に点眼薬をバッグに入れる。忘れたら取りに戻れない。これだけは絶対に忘れてはいけないもの。そう自分に言い聞かせている。
糖尿病の食事管理はChatGPTに任せられる。でも点眼は、自分の手でやるしかない。どんなにAIが進化しても、目薬をさしてくれるAIはない。
自覚症状がないから怖い|定期検査の重要性
緑内障で一番怖いのは、自覚症状がないことだ。
視野が欠けていても、脳が補正してくれるらしい。だから気づかない。気づいた時には、かなり進行している。失われた視野は戻らない。
私の場合、左目に欠損部分がある。検査の画像を見せてもらうと、視野の一部が黒く抜けている。でも日常生活では全く不自由を感じない。
試しに右目を閉じて左目だけで見てみる。欠けているはずの部分が、なんとなく見えている気がする。脳が補正しているのだ。この「なんとなく見えている」が曲者で、本当は見えていないのに見えているように感じてしまう。
定期検査の時、前回と比較して欠損が広がっていないかを確認する。今のところ進行は止まっている。点眼の効果が出ているということだ。この「変わっていない」という結果を聞くたびに、ほっとする。右目が補ってくれているからだ。検査の数値を見なければ、自分が緑内障だとは信じられない。
だからこそ、定期検査が大事だ。半年に一度、眼科で検査を受けている。検査の日は少し緊張する。「前回から悪化していないか」。待合室で順番を待つ間、いつも考える。
糖尿病のHbA1c検査と同じだ。「悪くなってなければいいな」。その気持ちで結果を聞く。緑内障の場合、悪化していたら取り返しがつかない分、緊張度はHbA1cより高いかもしれない。
検査後、医師が「変わりないですね」と言ってくれた時の安堵感。あれは何とも言えない。「よかった、また半年持った」。その繰り返しを、一生続けていく。
点眼薬の種類も、状況に応じて変わることがある。最初に処方された薬が合わなければ別の薬に切り替える。私の場合は今のところ最初の薬で安定しているが、将来変わる可能性もある。主治医との信頼関係は、長期戦の緑内障では特に大事だ。進行していないか、新しい欠損がないか。数値で確認する。HbA1cの検査と同じで、数値は嘘をつかない。
50代で目に不安を感じている方へ
50代になると、目の不調を感じる人は多いと思う。老眼、かすみ、疲れ目。「年だから仕方ない」で済ませがちだ。
でも、一度でいいから眼科で検査を受けてほしい。特に糖尿病や高血圧がある方は、緑内障のリスクが高い。自覚症状がないからこそ、検査でしか見つけられない。
私は糖尿病の医師に勧められなかったら、眼科に行っていなかった。行っていなかったら、緑内障に気づかないまま進行していた。たまたま見つかった。その「たまたま」がなかったらと思うと、ゾッとする。
日本では40歳以上の20人に1人が緑内障だと言われている。しかも、その多くは自覚症状がなく、未発見のまま進行している。自分もその一人になるところだった。
検査は1時間程度。費用も数千円。それで一生の視野を守れるかもしれない。迷っているなら、行ってほしい。
糖尿病、コロナ後遺症、慢性疲労症候群、そして緑内障。体に抱えるものが増えていく。でも、それぞれに対処法がある。糖尿病は食事管理でHbA1cを改善できた。慢性疲労はリモートワークで付き合い方を見つけた。緑内障は点眼で進行を抑えている。
一つひとつは地味な対処だ。でも、地味な対処を続けることが、50代の健康管理のリアルだと思っている。派手な解決策はない。ただ、毎日の点眼と、毎食の記録と、定期的な検査。それを積み重ねるだけだ。
コロナが始めた連鎖を、日々の地道な管理で食い止める。それが今の自分の戦い方だ。
緑内障は、人生で初めて「一生治らない病気」と向き合う経験だった。糖尿病もそうだが、緑内障は特に「見える世界が狭くなるかもしれない」という恐怖がある。目が見えなくなったら、ブログも書けない。子どもたちの顔も見えなくなる。だから、毎日の点眼を忘れない。それだけは絶対に。
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この記事は緑内障に関する個人の体験記録です。症状や治療については必ず眼科医にご相談ください。
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